パッシブソーラーハウス」タグアーカイブ

パラパ – 壁の無いオープンサイドのダイニング 



これは全く偶然なんですが、前回紹介したイギリスのパッシブソーラーハウスのサンルームに続きまして、今回は「夏に涼しい」パッシブソーラーハウス、メキシコ南西部のパラパ、壁の無い茅葺屋根の家のダイニングキッチンをご紹介したいと思います。

独身時代、良くインドネシアのバリ島にサーフトリップに行ったのですが、バリ島の安価なホテル、ロスメンなどにも、こんな感じのダイニングが設けられていることが多かったですね。
バリのホテルやロスメンは、大抵は中庭にプールがあって、そのプールを囲むように、こういったオープンサイドのダイニングが配されています。
朝食前にサーフィンに行って、帰ってきたらプールで泳いで潮を流して、そのままダイニングに入って朝食をとって、という感じで始まる一日が、とてものんびりとした良いリズムで、心も体もリフレッシュできた記憶があります。
話が脱線してしまいましたが、前回のイギリスのガラス張り屋根のロフトが、「冬の暖かさを求めたパッシブソーラーハウス」だとすれば、こちらのパラパは、「夏の涼しさを求めたパッシブソーラーハウス」の一例と言えると思います。
考えてみれば当たり前の事なのですが、パッシブソーラーハウスの様な、「その土地の自然環境をうまく利用する」住宅の特徴というのは、そもそもが、地域地域の持つ気候特性に応じて発展してきた伝統的な工法が実現する機能や特徴と似通っていたり、または同じである部分が多いのだと思います。
このパラパはラテンアメリカの伝統的な住居の一つなのですが、前回、イギリスのロフトのサンルームを見た時と同じように、この写真の撮られた場所、メキシコ ハリスコ州ヤラッパの気候を調べてみたいと思います。
ヤラッパにほど近い、同じハリスコ州の州都グアダラハラの気候を見てみますと、春から秋は平均最低気温は15度前後を上回り、平均最高気温は20度台後半から30度前後です。
平均気温が最も低い1月であっても、平均最低気温が10度前後、平均最高気温は24度前後と、冬の時期を含め、一年を通じて非常に温暖な気候であることがわかります。
また、降水量は、雨の多い6月から9月の4ヶ月間は月間200mm前後とかなりの量の雨が降り、それ以外の季節は月間で20mmを下回る程度にしか雨が降りません。
この様に温暖で過ごしやすい気候の中で、大きな庇によって南中高度の高い夏の太陽からの日差しを防ぎ、壁が無く通風の良い茅葺きの建物というのが、「暑さを遮る」住宅として重宝され普及してきた、という背景が良く理解できます。
これに対し、日本の気候について少し考えてみます。
日本列島は東北から南西に掛けて細長く国土が広がっていますので、同じ日本国内といえども、地域地域で気候区分も異なり、平均気温にもかなりの開きがあります。
その国土全体を考えてみても、沖縄などの南部の一部の地域を除いて冬はかなり気温が下がりますので、このパラパの様な住居を日本国内の住宅にそのまま適用するのは正直難しいかと思います。
ただし、「全く同じ目的、機能を求めて」用いるのでなければ、この様な様式の建物も、家の中の「面白みのある場所」として作り込むことは可能かもしれないです。
夏場は当然、その特徴である「夏涼しい」ダイニングとして利用することが可能ですし、例えば、関東以南の、冬でも日中の気温が5度から10度程度まで上がる地域であれば、ストーブや屋外暖炉などの暖房設備を併設することで、一年を通じて活用できる屋外ダイニングとして利用することは可能かもしれません。
日本の伝統的な建具である障子や襖を用いた囲い(壁)を作って置いて、夏場は開け放し、冬場は閉じて、ということによって気温の変化に対応する、というのも一つの手の様に思えますが、そうすると、まさに日本の伝統的な建物の建築スタイルに近い形になるわけです。
いっその事、ガラス張りのサンルームの様な屋根の上に、取り外せる様に萱葺き屋根をかぶせておいて、春先から秋にかけては茅葺屋根のパラパとして、冬場は取り外した茅葺き屋根を壁として用いて、茅葺き「壁」のあるサンルームにしてしまう、というのはどうでしょう(なんの検証もしていない妄想ですので…)。
Photo ©ehoyer

納屋のロフトをリノベーションしたサンルーム



こちら、イギリス南西部 コーンウェルにある、納屋のロフトをリノベーションしたお部屋なんですが、サンルームの様にガラス張りになった斜めの屋根の感じが中々良いなと思ったので、ご紹介させて頂きます。

「サンルーム」と書いてしまいましたが、こちらのリノベーション住宅の設計者であるGordon Collinsは、この家をパッシブソーラーハウスとして設計したということですので、実際にはサンルームと言うよりも、「パッシブソーラーハウスの一部」と表現するべきなのでしょう。
このパッシブソーラーハウスのことを具体的にイメージして考えるにあたっては、まずイギリス南西部の気候について簡単に知っておく必要がありそうです。
イギリスの気候というと、「一年中曇りの日が多くて寒そう。冬は特に寒い」という、非常にわかりやすいイメージなのですが、例えばコーンウェルに近い、南西部 エクセターあたりの気候は下記のような感じです。
・最も寒いのは1月、2月頃で、平均最高気温が8度、平均最低気温は2度(日本の東京と比較した場合、同時期で最高気温は10度前後、最低気温は2度前後という感じですので、東京よりももう少し寒い、というイメージでしょうか)。
・夏場も平均最高気温は20度前後、平均最低気温は10度前後と、「涼しい」か、もしかすると「少し寒い」程度の夏です。
・最も寒い真冬の季節が最も降雨量が多く、月間降水量は80mmから90mm程度。夏場の方が降水量は少なく、月間50mm程度(東京は、冬場の月間降雨量は50mm程度、夏場は150mm程度。台風シーズンの9月で200mm超)。
・月間降雨日数は、雨の少ない夏場でも10日程度、雨の多い冬場は16日から17日が雨。
なんだか、「いつも曇りか雨で、寒々しくて」、というイギリスのイメージそのまんまの気候ですね…。
パッシブソーラーハウス、というのは、「夏場は大きな屋根や庇で日光を遮り、天井や壁に設けた換気口、吹き抜けなどをうまく組み合わせて、自然換気によって涼しさを確保する」、「冬場は南側に設けた大きな窓、天窓などから太陽光を取り込み、断熱によって暖かさを確保する」という、自然の仕組みによる冷暖房を実現しよう、という仕組みです。
こちらの写真のロフト部は、その中でも「冬場の暖かさを実現すること」を目指したものにあたるわけですが、上記のような寒々しいイギリスの気候にあって、貴重な太陽の暖かさを享受する、という意味では、日本の気候において設ける南側の窓や天窓よりも、更に重要であり、また素晴らしい仕組みといえるような気がします。
日本でサンルームやガラス張りの屋根によって同様のことを実現する場合、冬場は同じように「太陽の恵みの素晴らしさ」を得られるという意味では、家の中の素晴らしい空間の一つを作り上げることができると思います。
ただし、日本の夏場はかなりの猛暑日がありますので、夏場の換気、暑さ対策については、プラスアルファの仕組みが必要だと思います(換気窓の増加、夏場用の庇の追加検討など。これは日本の中でも、家を建てる地域の気候によって、どういった取り組みが必要かという点が異なってくるとは思います)。
夏場の暑さ対策に限界があるようであれば、同じようなガラス天井のサンルームエリアを作っておいて、冬場はぽかぽかのリビング、夏場は窓を常時すべて開け放って、家庭菜園用のサンルームや子供たちの水遊び用エリアにしてしまうなど、「家の中でのエリアの使途」を季節によって変えてしまう、というのも良い手かもしれません。
Photo ©tonyhall