この家、ちょっと住んでみたいですね〜。
一風変わった外観のこのお宅、なんでこんな形をしているかと言いますと、実はこの円筒形の躯体、元は穀物用のサイロなんです。
カンザス州の農場で実際に使用されていたこのサイロ、こちらにお住まいの建築家 クリストフ・カイザーさんが、ネットで売りに出ていたのを発見して、ご自身の自宅の躯体として流用することを思いついて購入したんだそうで。
カンサスからアリゾナのフェニックスまで、ピックアップトラックの荷台に乗って1800km近い距離を運ばれてきたサイロは、この場所で基礎の上に据え付けられ、
ドアや窓になる部分を加工され、
内部に柱を立て、梁を架け、フロアを作って、壁には断熱材を張って、内装が施されます。
1階はリビング・ダイニング・キッチン。
中央に置かれたダイニングテーブルは当然円形。キッチンもクローゼットも扇型にカーブして、壁に沿ってぴったりと収まりまっています。
リビングの頭上の吹き抜けを螺旋階段で上がった先がベッドルーム。
カーブした壁に囲まれたこういう空間って、包まれ感のような独特の面白い雰囲気がありますよね。
バスルームも当然扇型。
内部のスペースは実はこれだけ。つまりこちらのお宅、一軒屋にして1LDKなんですね〜。
ちなみに、具体的にどの程度の広さなのかを数字でみてみますと、建築面積230スクエアフィート/延べ床面積340スクエアフィートとのことですので、平米/坪でいいますと、建築面積が約21.4平米≒6.5坪、延床面積が約31.6平米≒19畳。若い方が住むような一人暮らし向け1LDK物件が専有面積30平米前後といったところだと思いますから、まさにそれとほぼ同等の広さ。これは一軒家としてはかなりコンパクトな部類に入るのではないかと…。
躯体が円筒形だから、丸く削られたコーナーの分、余計に床面積が小さくなるということもあるかと思いますが、仮にここに立方体の建物を建てたとするとどんな感じになるんですかね?
試しに計算してみますと、建築面積21.4平米ということは、円筒の半径は、床面積21.4を3.14で割ったものの√で約2.6m、直径だとその2倍ですから約5.2m。この土地のコーナーまできっちり使って四角い躯体の家を建てたとしたら、建築面積は5.2m×5.2m≒27平米≒8.2坪弱ということになります。
軽くSketchUpで描いてみました。
縦横各5.2m×高さ6mの立方体と、そこに内接する円柱です。
高さ6mはちょっと高すぎだったかも。
こちらが立面図。
実際のサイロの高さは、円錐形になった頭頂部を除くと5m〜5.5mくらいといったところでしょうか。
こうやって実際に比較してみると、確かにコーナーまで使ったほうが、純粋な床面積が広くなるのは当然ですけれど、実際に生活する上で使えるスペースという意味ではあまり変わらない気がします。つまり、逆にいうと、建築面積21.4平米/延床面積31.6平米(1:1.48)の円柱形の建物というのは、建築面積27平米/延床面積40平米(27平米×1.48)程度のスクエアな建物と似たイメージで使える広さがあるということなのかもしれませんね。
周りを曲面で囲まれ、内部を構成するものや置かれたものにも角が少ないということは、いろいろな面でのメリットも生みだしてくれると思います。
カーブした壁に沿って置かれた扇型のソファは、ただ並んで座るだけで、お互いが自然に軽く寄り添ったような位置関係にしてくれますし、周囲に尖ったものが少ないというのは、小さなお子さんや先端恐怖症の方に限らず、普通の人がリラックスしてなにげなく時間をすごすという、それだけのことに対しても、十分すぎるくらいのアドバンテージをもたらしてくれるのかなと。
リビングの壁面には、庭につながる幅2.7mの全開口スライドドア。
スライドドアの幅にあわせて扇型の縁側のようなスペースが設けられてまして、地面より50〜60cmほど高くなったこの部分で、そのまま座って寛ぐことができるようになってます。
庭の形も当然扇型。
直線で囲われていないこういう空間って、実際の広さ以上の独特の拡がりが感じられる気がしますよね。
そういえば、ずっと前に、アムステルダムの図書館の円柱型の本棚というのをご紹介したことがあったんですけれど、こういう形って強度的には結構期待できるでしょうし、土台と柱と梁の間の接合をしっかりとやっておけば、より高い耐震性能を必要とする建物としての用途にも使えそうな気がしますね。
普通の本棚に比べれば、限りなく倒れる可能性が低くて安全な気がしますが、万が一横転したら転がりそうで怖い…。重心の設計だけはちゃんとしておかないと。
「四角い土地を四角く使う」というのは、数値の上ではもっとも利用効率の良い土地の使い方だと思いますけれど、そこで実際に暮らす姿をイメージしつつ、そこに、数値には見えてこないさまざまなメリットを見出すことができるのならば、こういうのも選択肢の1つとしては十分ありなのかなと。
それにしても、手間とかコストとかをいろいろ考えると、なんにせよ贅沢な土地の使い方/家の建て方であることに間違いはないとは思いますけどね…。
( Photos via christophkaiser / SketchUp images ©juutakudesign )
「狭小住宅」タグアーカイブ
【頭上と空中の活用】おもしろさのある8畳弱の狭小ワンルーム
こちら、ポーランドのとある狭小住宅なんですが、アイディアや作りがいろいろとおもしろいかなということで、ちょっとご紹介させていただきたいと思います。
広さわずか13平米≒8畳弱、細長いスペースの玄関側サイドには、かなり存在感のあるボックス状の造作クローゼット。
開けると中には、洗濯機まで入ってます。
クローゼットの上が、ロフトのベッドルーム。
1人で寝るには十分過ぎるくらいの広さです。頑張ればダブルベッドサイズのマットレスも入りそうですけれど、寝返りをうったときに落ちたりしたら怖いですから、このサイズに収めておくのが無難ですかね。
ロフトの下はキッチン。極限まで小さいこのスペース、決して使い易くはないとは思いますけれど、引き出し式の作業カウンターのお陰で、ちょっとした料理だったらなんとかなりそうです。
そして、キッチンの右脇がトイレ&バスルーム。
居室に戻りまして、部屋の奥のエリアには、ワークデスク&PC。
ワークデスクは伸長式。脇を伸ばしてPCをどかせばダイニングテーブルに。
そして、ワークデスクの奥にはハンモック、壁には自転車が吊られてたりして。
この狭さの中にソファを置くのはかなり厳しいと思いますけれど、これだったら大丈夫。たまには椅子じゃないところでちょっと一息つきたいこともありますから。これって別に狭小住宅だけに限った話じゃないんですけれど、ロフトといい自転車&ハンモックといい、「頭上&空中」をいかに上手に使うかって、スペース有効活用の大きなポイントなんですよね。
それにしても、8畳って、ワンルームの中でもかなり小さい部類に入るサイズじゃないですか。 昔、大学時代に、そのくらいの広さの部屋に住んでいる友人がいましたけれど、「玄関開けるとそこに小さな部屋が1つあってそれで終わり」という感じで、とてもじゃないですけれど、「自宅スペースを楽しむ」みたいなのとは程遠かった記憶があります。そこをこれだけのスペースに持って行ってるわけで、これはなかなか素晴らしいのではないかと。
狭小住宅の作りとかアイディアって、普通の一軒家とかでも、いろいろと応用できる部分があると思うんですよね。書斎やワークスペース、子供部屋あたりだと、まんまアイディアを流用できる部分もあると思いますし、「ソファの替わりにハンモック」みたいなアイディアが「いいな」と思えば、じゃあ、家を建てる際に、リビングやダイニングの壁に、耐荷重を確保したヒートンでも埋め込んでおくか、ということになって、そのヒートンがまた別の使い方もできて…なんて感じで、家の中におもしろいスペースが増えていってくれたりするのかなと。
それにしても、こういうアイディア見つけるたびに、僕の自宅にも盛り込みたいなと思ってストックに入れるようにしてるんですけれど、アイディアはどんどん集まるんですが、実際に盛り込むほうが追いつかないんですよね…。まあ、コツコツと少しずつDIYしてくしかないんでしょうかね…。
( via DESIGN MILK )